これといって取り柄も自慢もある町ではないけれど、
今、僕はこの町が好きだ。
僕はここで緩やかに育った。
ここで、可愛がっていた猫が死に、祖父が他界した。
両親は庭の柿の木と共に歳を重ねている。
もう、ここで最期まで暮らすと言っている。
近所に越してきた若い家族に子供が生まれた。
けれど、それはもうだいぶ昔の話。
その子供は、いつの間にか僕の胸ほどまでに背を伸ばした。
町を歩いていると、老人が増えたように思う。
そう感じるだけかもしれない。目に付くものが変わっただけなのかもしれない。
結局僕の心次第で変わる情景。
しかし決して変わらないものもある。
いずれ僕が離れていくこの町、
いま懐かしき我が町。