月曜日はいつも通り定時の事務所あがりだったのだけれど、その日、衝動的に海を見たくなったので、友人の車でうみほたるパーキングエリアまでドライブすることにした。
海を見たくなる、というのは、ふとしたときに誰にでも訪れる衝動だと聞いていたけれど、自分の中にも噂に聞いたとおりの想いが沸くのを感じるのは、少し不思議だった。けれど、そのことについてあまり多くは考えなかった。海が見たいと言ったら、友人がすぐに応じてくれたので、格別の疑問も持たずに夜の町を出発することになった。
うみほたるまで、どれくらいの時間がかかるだろう、と走り出した車の中で考えていた。
運転をつとめる友人は以前にもそこに行ったことがあるらしく、僕らの町からうみほたるまでのおおよその距離はわかっているはずだった。手軽に行ける距離ではない、ということは僕にもわかる。
―でも……
遠ければ遠いほどいいなと僕は思った。
車が走り始めてから、最初の信号に捕まった。何か音楽をかけようとかばんを探ると、ハービー・ハンコックの『River』が見つかったので、それをかけた。冷たいピアノの音色が車の中に落ちつきはじめたところで、信号が青になった。友人はとてもゆっくりとアクセルを踏んだ。
だいぶかかるよ、と含み笑いながら友人は言った。
ありがとう、と僕は言った。
つづく